東方仗助!アンジェロに会う その①~⑤
仗助と承太郎は脱獄してきた死刑囚アンジェロと戦う
エピソードからわかる仗助たちの精神的特性
仗助のじいちゃん
警官である仗助のじいちゃんは、笑顔が魅力的で茶目っ気たっぷり。仕事から家に帰った時もユーモアは忘れません。しかし、その柔和な表情が一変する瞬間もあります。死刑囚であるアンジェロの脱獄のニュースを聞くやいなや彼の目は真剣そのものに。「町を守っている男の目」となります。仗助のじいちゃんは警官の使命を果たすためにどんな時でも態勢を切り替えることができるのです。(娘の暴力を見過ごす一面もありますが・・・)
仗助
アンジェロに攻撃され、物言わず倒れてしまったじいちゃん。仗助は自分のスタンドでじいちゃんの傷を完璧に治します。しかし、じいちゃんは動きません。じいちゃんが二度と戻ってこないと気づいた仗助はそれまでの自信を一変させ、茫然とした表情を浮かべます。力のない口元、大きく見開けた目、あぶら汗。死という現実を受け入れられず、大きく取り乱し始めてもおかしくありません。
そんな仗助をみて、承太郎はどんなスタンドであろうとも命を元に戻せないことを仗助に語ります。語りが終わった時の仗助の表情はとても静かなものでした。この世界の摂理を悟り、じいちゃんの死を受け入れたのです。承太郎の言葉で仗助の心境が変化したのかはわかりません。しかし仗助は驚くほどの早さで冷静さを取り戻したのでした。
承太郎がアンジェロが再襲撃してくることを断言したときも、仗助はすぐに心を切り替えられました。自身や母親の身に危険を感じた瞬間は足を震わせていたのに、次のコマではぴたっと震えを止めます。仗助は即座に「町とおふくろを守る男」になれる男だったのです。
仗助とじいちゃんの関係
これらのエピソードからじいちゃんの精神が仗助に受け継がれていることがわかります。仗助たちには、困難に立ち向かうための意志を瞬時に宿せるという特性が備わっているのです。
1コマに描かれたジョジョの魅力
上にあげた仗助たちの心境の変化は1コマ、しかも特に動きも言葉もない小さい1コマの中に描かれています。この端的な表現が、読者を話に引き込み、キャラクターの成長や冒険を見守らさせようとしてくれるのではないでしょうか。
ジョジョの世界の死生観
警官である仗助のじいちゃんはアンジェロのスタンド攻撃で命を落とします。攻撃の詳細な描写は一切ありません。言葉もなくいってしまったじいちゃんをスタンドで治せず狼狽する仗助。承太郎はジョジョの世界で普遍的に成立する原則を語ります。
「生命が終わったものはもう戻らない」
「どんなスタンドだろうと戻せない・・・」
(出典:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない 1巻』)
仗助のスタンドは、傷であれば人間だけでなく亀などの生物や、壁や瓶などの無機物さえ瞬時に治すことができます。傷ついたものの時を戻すスタンドとも言えます。チートです。
仗助のスタンドに限らず、とんでもなく強力無比なスタンドがいくつもジョジョの世界には出てきます。時を止める、吹き飛ばす、加速させて世界をつくりかえる。スタンドがあればどんなことでもできるように思えます。
しかし、そのような強力無比なスタンド能力であったとしても「終わった生命は決して戻らない」のです。
なぜジョジョは心を打つのか
私たちの世界との共通点
ジョジョはファンタジーです。死後の存在である幽霊やゾンビが出てきます。元人間です。しかし、彼らが元の人間に戻ることはありません。ドラゴンボールはありません。やがてこの世界から去っていきます。生きた姿で二度と相まみえることはないのです。
失われた命は元に戻らない。これは私たちの世界と同じ絶対的な原則であり、勝つことのできない運命です。ジョジョはその原則を物語の核としてリアルに描き出しています。だからこそ、私たちはジョジョの物語に引き付けられ、心を大きく動かされるのだと思います。
(ドラゴンボールはドラゴンボールがあるからこその魅力があり、わくわくさせられます)
唯一の例外
実は一度だけ、明らかに命を失っているのに、最終的には元に戻るケースがあります。この話は、今後触れていきたいと思います。
仗助の才能
スタンドは精神の才能を表現していると言われています。仗助の才能は何でしょうか。ここまでの話で多くのことが描かれています。
- 正義の心
- じいちゃん譲りで、瞬時に瞬時に困難に立ち向かう決断ができる
- 命を狙ってくる敵だとしても命までは奪おうとしない
- 爆発的な怒りのパワー
- 母親譲りで、自分の髪がはねあがるほどエネルギーに満ちている
- 怒っているとスタープラチナのガードも吹き飛ばす
- 怒りに満ちていても冷静な行動ができる
- じいちゃんを殺されてものに当たって怒り散らしつつも、承太郎に「(アンジェロのスタンドに)侵入されたらおれの負けです」と冷静に答えられる。肝が据わっています
- ジョースターの血統
アンジェロとの対峙から見えてくる4部の構造
死の重み
アンジェロを追いつめた仗助。助かるためにアンジェロは仗助を精神的に脅します。
「おめーにおれを死刑にしていい権利はねえッ!」
「もしおれを殺したらオメーもおれと同じ呪われた魂になるぜェッ!」
(出典:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない 1巻』)
ここでアンジェロを捉えて警察に引き渡したとしても、アンジェロがそのスタンド能力で再び凶悪な犯罪を繰り返していくことは火を見るより明らかです。二度と世の中に現れないよう決着をつけなければなければなりません。
しかし、仗助にとって命を奪うという選択は難しいものです。日本の法律では当然殺人は許されません。ましてや仗助は、家族と平和に暮らしてきた普通の高校生です(杜王町というヤンキーあふれる街の学生ではありますが)。同じ高校生でも、絶対的な悪として君臨するDIOを倒すために、旅に出た承太郎や花京院とは違います。それを見越してアンジェロは、仗助の魂に呪いをかけようとしたのです。
1~3部の闘いは、負けた方が死に向かう命の取り合いでした。一方4部では、この話からも、この話以降でも死というものの重みにフォーカスされていることが見えてきます。
裁きの形
永遠に供養しろ!
(出典:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない 1巻』)
仗助は、岩に半永久的に閉じ込める形でアンジェロを裁きます。平気で命を奪う敵と奪わない主人公という構造がここにはあります。
まとめ
アンジェロとの戦いには4部を構成する重要な要素がいくつも出てきました。
- 主人公側は、命を守ろうとしたり、治そうとする
- 敵側は、命を奪いにくる
- 失われた命は元に戻らない
ある意味当たり前と思われるかもしれませんが、その当たり前が1~3部よりもさらにくっきりとした姿で描かれています。アンジェロとの対峙は4部の根底に流れるテーマを予感させてくれるのでした。